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はじめに 米国の石油生産の増加を背景に石油製品の荷動きは変化すると予想されるが、中国など新興国を中心に需要拡大が継続すると見込みであり、石油製品の需給及び海上輸送量は当面は大きな影響を受けないと思われる。一方で、荷動きの変化により輸送形態が影響を受けると考えられることから、この点に関しては今後特に注視していく必要があると思われる。 1. 現状 2012年9月に米国が量的金融緩和第三弾、いわ ゆるQE3(Quantitative Easing Program 3)を導 入したことをきっかけに主要国の株式、不動産な と寺の資産価格が真っ先に上昇し始めた。リーマ ンショック後に米国が実施したQE1、QE2、QE3 と続く一連の量的金融緩和の特徴は、本来は市 場で決定される長期金利に中央銀行が積極的に 介入して、長期金利をできるだけ低位に安定さ せることにある。 長期金利を低位に安定させる ことで設備投資などの投資需要を刺激するだけ でなく、株式、不動産などの資産価格を上昇さ せ、それが個人消費などを刺激するいわゆる資 産効果も期待されている。量的金融緩和による 投資需要や資産価格への影響は、徐々に船価に も及び始め、中古船価や新造船価が過去1年に わたり上昇してきたことは周知の通りである。 さらに、ここ数カ月においては、量的金融緩和 表1新規発注量、発注残、Fleet は金余り現象としての側面も見せ始め、あふれ始 めたマネーが時間差をもって海運市場にも流れ込 み、投資ファンドはアグレッシブな買い手として 存在感を示し始めている。 MRタンカーの船価や傭船料は2009年頃には下 げ止まり、その後は一進一退の展開が続いていた (図1.参照)が、ここにきて中古船価が先んじて 上昇し始めている。新造船発注に関しては、2012 年の後半からMRタンカーの新造船発注量が回復 し増加傾向にある。 Clarksonによれば、2013年1月から8月までの タンカ}の新規発注量等は表1の通りであるが、 2012年から発注が増加し始めたMRタンカー (本稿では3 万DWT~6 万DWT のプロダクト タンカ~)については、同期間の発注は4.6 百万 DWT、前年同期比39%増加となっており、2013 年8丹末時点の発注残(11.3百万DWT)のFleet (2012年末、73.7百万DWT)に対する割合は15.3% まで上昇してきている。この割合は2012年末では 10%程度であったことからハイベースで発注残が 積み上がっていると考えられる。これまでのペ} スで発注が続いた場合、MRタンカーの発注残は、 2013年末にはFleetの20%近くまで上昇し、今 後の船舶需給に与える影響が懸念されるところ である。
2. 供給過剰懸念は払 さてそれではBDI(他のBCI/BPI/BSIも同じ)はどうやって数値化されるのだろうか? 再度、WIKIPEDIAで調べると「バルチック海運取引所は海運会社やブローカーなどから鉄鉱石・石炭・穀物といった乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する外航不定期船の運賃を聞き取り、結果を取りまとめて同指数を算出、発表する。」と書かれている。 実際はBALTIC EXCHANGEに加盟している欧州の大きなブローカーショップがパネル・ブローカー(CAPEでは13社、PANAMAXでは20社)としてその日のマーケットの数値をBALTIC EXCHANGEに午前中に報告(PANAMAX であれば、P1A, P2A,P3A,P4)、そして午後一時に公表される。 よって、足元のMRタンカーの需給 ギャップに関しては、供給過剰気味ではあるが、 さほど大きなギャップでは無い可能性があろう。 今後の供給に関しては、2013年末のFleetに対 する発注残の割合が20%に達するとした場合、3 万DWT台の高齢船のクラップをある経度考膚す ると、2015年末のFleetは2012年末比13%程度 は増加すると予想される。 需要面では、欧州、オーストラリアなどの先 進国の老朽化した製油所の閉鎖、中東、インド、 中国などの最新製油所の新規稼働(図2.参照)で 石油製品の海上輪送量が底上げされる一方で、 シエール革命を背景に米国の石油および石油製品 の輸入減少が見込まれており、海上輸送量の伸び は、先月号で考察した通り、年率3%程度(2015 年まで累積で9%程度増加)に留まるのではない かと予想される。 市場での石油製品の需要増加予想、は、経済成長 などの前提にもよるが概ね年率3%増から7%増 のレンジに収まっているように思われる。上記の 通り年率3%程度の伸びでは、Fleetの15%増加 を十分に満たすことができないが、年率6%程度 増加するならば供給過剰懸念は払拭されよう。 過 去10年開で石油製品の輸送量増加率が6%を上 回った年は、2004年、2005年、2006年と3年開あ り、世界経済の好転次第では需要の上積みは十分 可能であろう。また経済の前提条件以外にも、サ ウジアラビア等中東の石油製品輸出の増加および 先進国の輪入増加などの輸送形態の構造的変化や ECOデザインMRタンカ}の市場投入など需給 関係を好転させる要素も流動的ではあるがいくつ か残されている。MRタンカ}の供給過剰は確か に懸念されるものの、上記構造変化の展開次第で は、十分吸収可能な程度であろうと思われ、需給 ギャップが解消されていく局面も期待できょう。
はじめに 図1
図2 出所:米国エネルギー情報局のデータを基に作成 2012年以降に関しては、中国を中心とするアジア地域での需要増加を北米、南米、ロシア、OPECなどの増産で賄う構図となるが、これは、2005年から2012年までの需給構造の変化と基本的には同様であり、構造変化のトレンドに変化はないと思われる。2012年以降は中東、ロシア、南米から中国及びアジア諸国への輸出が増加する一方で、北米向けは減少する見込みである。 2005年以降、米国において非在来型エネルギーの開発が進んだことで米国の石油供給量が増加している一方で、リーマンショックに代表される景気後退やそれに伴う省エネルギー意識の高まりから、米国の石油需要は大幅に減少している。米国の石油供給の増加トレンドには変化はないが、需要については景気回復に伴い回復する可能性が高まっており、米国の輸入減、輸出増がさらに加速するとは想定されていない(図3及び図4参照)。
図3 出所:米国エネルギー情報局のデータを基に作成
出所:米国エネルギー情報局のデータを基に作成
2. 需給への影響 上記の通り、石油製品の海上輸送量は引き続き増加することが見込まれる。IEA(国際エネルギー機関)によれば、2012年から2018年までの原油の荷動きに関しては、中東・アフリカ・南米から米国、中東から日本への輸出が引き続き減少する一方で、中東及びロシアから中国・アジア諸国向け輸出は増加することが見込まれている(表1参照)。
出所:国際エネルギー機関のデータを基に作成
はじめに 1. 現状
シェール革命が革命と呼ばれる所以は、採掘技術の開発によりシェールガスやシェールオイルが安価に生産できるようになり、天然ガスや石油の採掘可能埋蔵量が劇的に増加したためである。EIA(米国エネルギー情報局)によれば、原油の採掘可能量は2005年時点の1兆2,000億バーレルから2012年には1兆6,423億バーレルへ、天然ガスの採掘可能量は2005年の6,137兆立法フィートから2013年には22,882兆立法フィートに大幅に増加したと予想している。世界最大の原油消費国でかつ世界最大の原油輸入国である米国がシェールガスにおいては世界で4番目の採掘可能埋蔵量を保持しつつ、さらに積極的にシェール革命を先導することで、米国が原油及び天然ガス市場に与えるインパクトはさらに高まるであろうと思われる。
天然ガスの生産拡大は、発電コストなどのエネルギーコストの低下、米国の国際収支の改善、中東諸国など現産油国の国際的地位低下及び国際収支の悪化、化学基礎原料エチレンの天然ガスからの生産拡大など影響は多岐にわたると思われる。国家戦略上最も重要な要素の一つであるエネルギーに関して、米国が供給面でも主導権を持つことは世界のパワーバランスに影響を与えると思わる。米国では、2000年代からシェールガス及びシェールオイルの開発及び生産が本格化しており、米国天然ガス生産量の33%、米国原油生産量の10%をそれぞれ占めている。このような米国のシェールガス及びシェールオイルの増産が与える影響が直接的に現れている事例としては、天然ガス及び原油の世界市場での荷動きや市況である。天然ガス市場では、米国の天然ガス増産⇒米国の天然ガス輸入減少⇒カタール産等の天然ガスの米国向け輸出減⇒カタール産等の天然ガス欧州市場へ流入⇒ロシア産天然ガスの欧州市場での競争激化⇒天然ガス価格下落、といった経路で天然ガス市況が下落、石油に関しては、米国におけるシェールオイルなどの非在来型石油の生産量が増加したことを受けて米国の原油輸入依存度は2005年の60%から2012年には43%に急低下している。 2. 今後の見通し シェールガス、シェールオイルの特徴の一つとして、シェールガス及びシェールオイルは特定の地域に偏在している原油と違い世界各国に幅広く分布していることが挙げられる。しかしながら、シェールガス及びシェールオイルの生産には水資源の確保、排水処理などの環境対策、パイプラインなどの輸送インフラへの投資など様々なハードルが残されている。そのため、すべての保有国が生産量を拡大させるかどうか不透明であるが、いち早くシェールガスの開発に取り組んできた米国、世界最大のシェールガス採掘可能埋蔵量を誇る中国、経済成長に伴い需要増加が見込まれる南米などを中心に生産増が見込まれ、引き続きエネルギー超大国米国を中心に展開していくものと思われる。
図1 出所:米国エネルギー情報局のデータを基に作成 EIAによれば、2012年の米国のシェールガス及びシェールオイルの採掘可能埋蔵量は世界埋蔵量のそれぞれ9%、17%を占め、生産量では天然ガスの20%、石油の10%を占めている。また、米国の天然ガス生産量は図2の通りであるが、米国は2020年頃に天然ガス純輸出国へ転換すると予想されている。
図2 出所:米国エネルギー情報局のデータを基に作成 次に、米国を中心とする荷動きのポイントは、①石油から天然ガスへの代替がどの程度進展するか、②米国のエネルギー消費効率の改善がどの程度進展するのか、である。米国のエネルギー最大消費セクターである運輸セクターで、天然ガス車など代替エネルギー車の普及、低燃費ガソリン車の拡大が進めば、米国は天然ガスのみならず、ガソリンなど石油製品においても純輸出国となり得ると予想されている。
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